葬送の従者達

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     小説に限らなくても、一般論として、何事もはじめが肝心であるのは疑う余地もない事実であり、終わりよければ全て良し、などという警句は正直言って眉唾だ。かつての僕の経験から鑑みると、初めよければその後もだいたい良し、というのが実情ではなかろうか。
     それならこれからぼくが語らんとしている話は面白いのかと言えば、それは一概に言えませんと言わざるを得ないのだ。というのもこの話はぼくの個人的な体験に過ぎないからで、さらに悪いことにはぼくにはつまらない話を面白く料理するだけの文才もない。もちろん筆不精なぼくがこうしてわざわざ文章に残そうという一大決心を起こすくらいには、ぼくの体験は衝撃的だったし、たぶんぼく以外の《人間》で同じような目にあったのはあの二人くらいのものだから、それなりに語る価値のある話だとは思うのだけれど、なにぶん思い込みの激しいぼくのことだから、ひょっとすると全然、たいしたことなんてない話なのかもしれないのだ。ことさらに他人の感興をかきたてる話なのか、と問われれば疑問符を付けたくなってしまうのである。

     しかし。
     それでも、ぼくは書こうと思う。

     誰に何と言われようと。
     書かなければいけないと思う。

     これからぼくは――ある事件について語る。
     
     あの人は、絶対に口外するなと言っていたけれど、たぶんぼくが彼女と会う機会は二度とないだろう。気兼ねなんてするものか。
     それにあの事件の当事者はぼくだった。
     すべての発端は――ぼくだったのだから。
     だから、語る義務は無いけれど、権利くらいは、ぼくにもあるだろう。
     たとえ思い上がった馬鹿野郎だとあいつに罵られても、構わない。否――ぼくは罵られて当然の人間だ。すべての責任はぼくにあった。すべての因果と結果はぼくに帰さねばならない。ぼくは自分自身に対する責務を果たさなくてはならない。不本意にもぼくの巻き起こした因果の渦に巻き込まれた彼女を解放しなくてはならない。
     そうして――物語を終わらせなくてはならない。
     自分ではじめた物語を。
     ぼくから始まった物語を。
     終結させるために、語る。
     それがぼくの、最後の仕事なのだから。

     ――だめだめ。格好よくキメたつもりだったけれど、まったくもって欺瞞だらけだ。所詮ぼくにはストーリーテリングの才能なんてありはしないのだ。もったいつけるのはやめにして、そろそろ物語の幕を上げよう。
     どこからはじめてもよいのだけれど……こういうのは不慣れなものだから、少し迷ってしまう。
     よし、決めた。やっぱり最初は――

     あの日、あの場所で、ぼくが一人の魔女と出会うところから、物語を始めよう。
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