エピローグ
4
慎二は台所を出て玄関まで行くと、一度息を吐いてから、一気に扉を開いた。
「うあー。冷房つけると、これが嫌なんだよな……」
うだるような熱気に体が溶けそうになる。慎二は気合を入れて扉を閉め、容赦なく肌を焼く日差しの中に身をさらした。
大介と冴枝はようやく口喧嘩を終えたらしく、大介は草むしりに戻り、冴枝は木陰に座って本を読んでいた。
慎二が自分の持ち場に向けて歩いていくと、大介が気付いて声をかけてきた。
「お、慎二か。何してきたんだ?」
「喉が渇いたから、ジュースをね」
大介は「そうか」と言って作業に戻った。慎二はなんとなくその横顔を眺めていたが、突然あることに気がついた。
「大介って、汗をあんまりかかないんだね」
「ん? ……ああ。前はそんな事なかったんだけどな。……そういえば、二ヶ月前くらいからか? 妙に平熱が低くてよ……体温計が壊れてるんだと思うんだが」
大介が急に早口で妙なことを言い出した。
慎二は少し思い当たる節があったので、
「ちょっと、ごめん」
とことわった上で大介の腕に触れてみた。
「……………」
「何だよ、慎二」
「いや、なんでもないよ。邪魔してごめん。草むしり、頑張ろう!」
「お、おう……」
慎二は自分の持ち場に戻ると、すぐに草むしりを始めた。
「な、何だ、今の……」
大介の腕は異常に冷たかった。周囲の暑さのせいもあるかもしれないが、それにしても、あんな氷のような……。
――なによこれ、死人みたい
タクシーの中で冴枝が言った台詞と共に、桂が慎二にはよく分からない事を言っていたことを思い出した。
「桂先生……大介に何をしたんですか……?」
『何って、何がだ』
桂が慎二の口を通じて応えた。
慎二は嫌な予感を覚えながら、桂を追及した。
「そういえば理事長が、先生の事を魔女って呼んでましたよね……あれってどういうことですか?」
『そのままの意味だが。私はヴードゥー教の魔女――正確にはボコールだ。……理事長とはちょっとした縁で昔知り合っていてな。だからこそ、私がコイル≠フ守護者だとバレてはまずかった訳だ』
「なるほど……ところでボコールっていうのは、その、どんな魔術を使うんですか?」
慎二の問に、桂は恐るべき答えを口にした。
『そうだな……貴様にとって分かりやすく言えば、あれだな。――ゾンビを作ったりするのが仕事だ。とは言っても私が作るのは高級で、知性も体力も生きている時の状態を維持できる――どうした?』
慎二はそれ以上聞くのをやめた。