By the words of WIZARDS

  • TOP
  • 4章3節へ
  • 5章1節へ
  •   第四章 白銀の月光  

        4

     そして気づいた時には、世界は正常へと還っていた。
    「―――――っは」
     慎二の全身が一気に脱力した。尻餅をつくようにその場に座り込む。
     長い夢から覚めたような気分だった。
     空は暗く、月は銀色に光っていた。夜風がひんやりと慎二の頬を撫でる。
    「――たす、かった……?」
     何故か、体中が恐ろしくが重かった。全力疾走をした直後の疲れに似ていたが、息は全く切れていない。
    「……そうだ、大介!」
     慎二は悲鳴を上げる全身に鞭打って、倒れている大介の傍に駆け寄った。
     いつかテレビで見た通りに、呼吸と脈拍を確認する。微かな息遣いと弱い鼓動だったが、それらは確かに大介が生きている事を示していた。
    「よかった……でも、どうして」
     西尾の操る糸によって、大介は首を吊られていた。あれだけ長時間首を絞められて生きていられるはずはない。
    『礼ならさっきの男に言う事だな』
    「えっ……」
     突然聞こえた声に慎二は周囲を見回したが、すぐに自分自身の声であることに気付いた。
    『あの男の生体エネルギーを唐沢大介の体に移植した。体細胞が死滅する前だったからな。ぎりぎりだったがなんとか間に合った』
    「あなたは……もしかして……」
     声質こそ慎二のものだったが、その高圧的な物言いに慎二は聴き覚えがあった。
     慎二は扉の横の窓ガラスの前まで移動した。
    「桂、綾子……?」
     ガラスの中に映りこんだ慎二の眼に、赤い色が一瞬過ぎった。
    『そうだ。……まったく貴様という男には邪魔をされてばかりだな』
     鏡の中で、慎二の姿をした桂綾子が、不敵な笑みを浮かべて慎二を見返していた。
  • TOP
  • 4章3節へ
  • 5章1節へ
  • Copyright (c) 2009 RYUKYU AKAHANE All rights reserved.
      inserted by FC2 system