第四章 白銀の月光
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そして気づいた時には、世界は正常へと還っていた。
「―――――っは」
慎二の全身が一気に脱力した。尻餅をつくようにその場に座り込む。
長い夢から覚めたような気分だった。
空は暗く、月は銀色に光っていた。夜風がひんやりと慎二の頬を撫でる。
「――たす、かった……?」
何故か、体中が恐ろしくが重かった。全力疾走をした直後の疲れに似ていたが、息は全く切れていない。
「……そうだ、大介!」
慎二は悲鳴を上げる全身に鞭打って、倒れている大介の傍に駆け寄った。
いつかテレビで見た通りに、呼吸と脈拍を確認する。微かな息遣いと弱い鼓動だったが、それらは確かに大介が生きている事を示していた。
「よかった……でも、どうして」
西尾の操る糸によって、大介は首を吊られていた。あれだけ長時間首を絞められて生きていられるはずはない。
『礼ならさっきの男に言う事だな』
「えっ……」
突然聞こえた声に慎二は周囲を見回したが、すぐに自分自身の声であることに気付いた。
『あの男の生体エネルギーを唐沢大介の体に移植した。体細胞が死滅する前だったからな。ぎりぎりだったがなんとか間に合った』
「あなたは……もしかして……」
声質こそ慎二のものだったが、その高圧的な物言いに慎二は聴き覚えがあった。
慎二は扉の横の窓ガラスの前まで移動した。
「桂、綾子……?」
ガラスの中に映りこんだ慎二の眼に、赤い色が一瞬過ぎった。
『そうだ。……まったく貴様という男には邪魔をされてばかりだな』
鏡の中で、慎二の姿をした桂綾子が、不敵な笑みを浮かべて慎二を見返していた。