By the words of WIZARDS

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  •   第一章 紅の邂逅  

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     慎二は強烈な眩暈に襲われていた。
     今日という日は一体どうなっているのだろう。
     授業中に見たあの奇妙な夢。
     存在すら知らなかったはずの部屋へと一直線に向かって行った自分。
     今この時まで、そのことに疑問すら抱かなかった自分。
     そして、消えた通路。
     まるで、初めからそこには何も無かったかのように、通路の入り口はただの廊下の壁に変わっていた。
     全くもって、馬鹿げている。
    (単なる白昼夢―――だったんだろうか)
     それにしては、慎二の頭に残っている印象はあまりに鮮明だった。
     どこか不安そうに小さなコーヒーカップを抱えていた御牧美千瑠のダークグレーの髪。
     大きさから造りまで、全てが高校に似つかわしくない金属製の、錆びた扉。
     そしてあの目。
     金色の虹彩。
     あの目、あの眼、あのめだけがどうしてもわすれられない―――
     その時、全身に衝撃が走った。両膝と右肘の痛みと、学生服が擦れる感触。
    「――あ? ……おい慎二、何してんだ」
     大介が慎二を引いていた手を離して屈みこむ。
     慎二は自分が廊下で転倒したことに気がついた。
    「う――ごめん。ぼうっとしてた」
    「らしくねーな」
     大介は呆れたように言うと、再び慎二の右手を取って慎二が立ち上がるのを助けた。
    「悪いが、お前、今日は思いっきり変だぞ」
    「知ってる」
    「何かあったのか?」
     慎二はどきりとした。
     だが、本当の事を言っても信じてはもらえないだろう。
     それどころか、精神病棟送りにされる恐れすらある。
     大介の父親は慎二達の住む美崎市で一帯では有名な精神病院の創立者であった。
     その財力は底知れぬものがあり、二年前に上ヶ崎高校が経営難に陥った際にも多額の資金援助を行って理事長に就任したという経緯がある。
     もっとも大介自身は父親とは疎遠であり、病院経営にもとんと興味が無かった。一年ほど前に彼はそれを父親に正面切って告げ、結果として今は勘当寸前の状態にあるらしいことを、慎二は大介本人から聞かされていた。
    「…………いや、別に大したことじゃないよ。昨日は寝つきが良くなかったから、睡眠不足なんだと思う」
    「ふうん。そんならいいけどな。けど夜はちゃんと寝た方がいいぜ……老けるらしいぞ……」
     親友の体内環境について忠告しながら、大介は廊下の窓から校庭側に視線をやった。
    「ああっ! もう始まっちまう、急ぐぞ!」
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